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広島地方裁判所 昭和43年(行ウ)13号 判決

原告 船田鶴松

〈ほか一名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 原田香留夫

右訴訟復代理人弁護士 相良勝美

被告 五明金弥

右訴訟代理人弁護士 宗政美三

主文

本件胸像等の収去土地明渡の訴を却下する。

被告は下蒲刈町に対し一五〇万円及びこれに対する昭和四三年四月一日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮執行ができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告は下蒲刈町に対し、一五〇万円及びこれに対する昭和四三年四月一日から右支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。被告は同町立下蒲刈中学校校庭の正門東寄り敷地一〇〇平方メートルをその地上のブロンズ胸像、胸像台石及び石垣を収去して明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、原告らは普通地方公共団体である下蒲刈町の住民であり、被告は昭和四三年二月一〇日当時右下蒲刈町長の職にあったものである。

二、被告は下蒲刈町長として、昭和四三年二月一〇日同町下島区丸谷所在同町立下蒲刈中学校の町有財産である校庭敷地に町費一五〇万円を支出して、高さ四メートルの石垣をもって一画とし、高さ一・八メートルのアフリカ産台石上に自己の等身大ブロンズ胸像を建設した。

三、右は違法な公金の支出というべきであるから、被告は下蒲刈町に対し、右不法行為に基づく損害賠償として一五〇万円及び右履行期経過後である昭和四三年四月一日から右完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、また原状回復として、右胸像等を撤去して、右土地を明渡すべき義務がある。

四、原告らは右につき、昭和四三年三月一一日同町監査委員に対し、監査及び措置請求をなしたところ、右監査委員は同年五月七日原告らに対し、右請求は理由がない旨の通知をなした。

よって、原告らは地方自治法第二四二条の二第一項に基づき下蒲刈町に代位して本訴請求に及ぶ。

被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との裁判を求め、事実に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因事実中、町有財産である敷地上に原告ら主張の胸像等が建設されたことは認める。

二、右胸像等は昭和四一年九月一二日下蒲刈町の区長ら有志三名より、当時下蒲刈町長であった被告が下蒲刈島内一周道路の建設をはじめ、永年村長、町長在職を通じて、右島の後進性打破に功績があったとして、被告の頌徳像建立の請願が提出され、右請願は昭和四一年九月一二日の下蒲刈町定例議会に附議され、少数の反対議員を除く大多数の議員の賛成を得て採択、予算化され、昭和四二年三月の町議会において議決のうえ建設されたものである。

証拠≪省略≫

理由

一、原告らは被告に対し、本件胸像等の収去土地明渡を求める原状回復の請求をなしているところ、地方自治法第二四二条の二第一項第四号によれば、普通地方公共団体の住民が普通地方公共団体に代位して行なう当該職員に対する訴は損害賠償の請求もしくは不当利得の返還請求に限られていることからすると、被告に対する右請求は不適法というべきであり、却下を免れない。

二、弁論の全趣旨によれば、請求原因一、四項の事実が認められる。

三、原告ら主張の胸像等が建立されていることは当事者間に争いがなく、右と≪証拠省略≫によれば、本件胸像等は被告主張の経緯により、昭和四三年二月一〇日頃当時下蒲刈町長であった被告が右町議会の議決に基づき町長として建設を完了させ、これが建設費用一五〇万円の支出をなしたものであることが認められる。

四、普通地方公共団体が斯界の功労者の功績をたたえて頌徳碑等を建立することが当該住民の徳育等精神生活上の行政目的に適うものとして、許容されうる場合があるとしても、右認定のとおり、本件は下蒲刈町長在職中の被告が町行政に対する自己の功績をたたえるべく、町費をもって自らの胸像を建立するものであること及び右支出額が一五〇万円の多額にのぼるものであることからすると、右建立は、被告が町政に功績があったとしても、自らこれに関与することにより頌徳の趣旨に反し、むしろ、自己宣伝のための行為と評価され、また住民全体の奉仕者たる首長の責務に著しく違背し、住民の徳育等の行政目的にそうとはとうてい認めがたい。したがって、右支出行為は違法というべきである。右建設は、下蒲刈町議会の議決を経たものであるけれども、町費支出の任にあたる町長は当該支出が前記の如く実質的に違法である以上これを阻止すべき権能と責務を有すると解するを相当とし、右議決によって本件支出が違法性を欠くとはなしがたく、また監査の対象となりえないとするにも足りない。そして、被告は町長として、右の支出が町に損害を与えるものであることを知りまたは知りうべきであったものと認めうるから、被告は故意または過失によって、下蒲刈町に対し、前示支出額と同額の損害を被らせたこととなり、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。

以上により、被告は下蒲刈町に対し、不法行為に基づき一五〇万円及びこれに対する不法行為後である昭和四三年四月一日から右完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五、よって、原告らの本訴請求を以上の限度で認容、却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川茂治 裁判官 北村恬夫 篠森真之)

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